2022.09.09

俺の浜田省吾

  • オニレコ
俺の浜田省吾

思い出してくれ。タイトなブルージーンズに真っ白なTシャツで幾度となくコンサート会場へ足を運んだあの頃の君を。想像してくれ。苦労して手に入れたチケットを何度も手渡しては、君のための席が冷たくなっていくのをただ見つめるばかりだった若き日の私を。

やれやれ、女の子はいつだって子栗鼠のように無邪気で、それでいて怒り狂った王蟲のように決心を曲げようとしないんだから。

どう? いいでしょ。反骨精神と卓越した物語性、バックバンド THE FUSE の演奏力、キャッチーなメロディライン、盟友である町支寛二と奏でる美しいコーラスワーク、そしてユーミンの向こうを張る同時代性。

浜田省吾の歌には「あの頃」の空気が色濃く漂う。単に「古い歌」では片付けられない、かつての若者が感じていた個人的で、のっぴきならない心情が「誰かの物語」として歌われている。アメリカへの憧憬、父親へのいらだち、心にナイフを忍ばせながら愛憎の夜を彷徨い、恋と革命を信じていた高度経済成長の落とし子たち。私はコンサート会場で歌い、ガードレールに腰かけウォークマンを片手に歌い、週末になるとポンコツ車の中で彼女と歌った。

やがて父親たるアメリカのヘゲモニーが疲れ果て、夢の終焉を見たとき、私と浜田省吾の関係も少しずつ変わっていった。時代が移ればニュースのヘッドラインだって様変わりする。端的に言うと、現実の世界では彼女の背中にリアルなナイフが刺さっていた。サリンジャーはこの世を去り、数えきれないほどの魚が波打ち際に打ち上げられていた。浜田省吾の歌は、そして私の「あの頃」は、もはやファンタジーとなってしまったのだ。そのうえ私は私の心が彼の歌から遠ざかっていくことに、とても自覚的だった。

さて、みなさんご存知のように私はNHK「みんなのうた」が大好きだ。毎日見ても見飽きることがない。まるでソーホーのギャラリー、中心のない小さな宇宙。その「みんなのうた」から、かつて慣れ親しんだ懐かしい歌声が聞こえてきた。去年の暮れのことだ。中嶋ユキノさんが歌う「ギターケースの中の僕」という曲のコーラス部分で彼が歌っていた。すぐに浜田省吾だと分かる、変わらないやさしい声。遠く遠くへ歩き続けて、ふいに見つけた小さな宝箱を開けると「あの頃」の情景があふれ出て目を細めるような、そんな穏やかな気持ちになった。

浜田省吾は、やっぱりいい。

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